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研究開発 医薬品創製物語

メロペン開発秘話

メロペン(一般名:メロペネム水和物)は、グラム陽性菌からグラム陰性菌、嫌気性菌におよぶ幅広い菌種に対して強力な抗菌活性を示す注射用カルバペネム系抗菌薬です。特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)などのグラム陰性菌に非常に強い抗菌力を示すと共に、従来のカルバペネム系薬の課題であった中枢神経や腎臓に対する毒性が、大幅に低減されていることが本剤の大きな特長です。このように優れた有効性と安全性を併せ持ったメロペンは、1994年にイタリアで上市されて以来、世界100ヵ国以上で承認・発売され、2008年度には全世界での売上が1,000億円を超え、世界を代表する注射用抗菌薬となりました。そしていまや、多くの感染症診療ガイドラインで推奨されるとともに、重症細菌感染症の標準的治療薬として臨床上欠くことのできない薬剤となっています。

メロペン発売国(2004年3月現在)

リード化合物チエナマイシンの発見

1976年にKahanらにより、土壌中の放線菌(Streptomyces cattleya)が産生する物質としてチエナマイシンが発見されました。チエナマイシンは、β-ラクタム化合物の一種であったものの、従来のペニシリン系やセフェム系とは異なる化学構造を有し、カルバペネム系という新たな化合物群に属する物質でした。チエナマイシンは、当時新しい系統の抗菌薬として高い評価を受けていた第3世代セフェム系薬をしのぐ、強力で幅広い抗菌スペクトルを有する抗生物質として世界中の注目を集めました。しかしながらチエナマイシンは、化学的安定性および生物学的安定性が低く、また強い中枢毒性および腎毒性を示すなど、医薬品として開発するには大きな問題を抱えていました。そこで当社では、この新しいカルバペネム骨格をベースに、「チエナマイシンの切れ味」と「セフェム系薬の高い安全性」という2つの特長を兼ね備えた理想的な抗菌薬の創製を目指し、新規カルバペネム系薬の探索研究に着手しました。

β-ラクタム系抗菌薬の分類

若手研究者による探索研究の展開とメロペネムの発見(1978~1983)

天然物チエナマイシンをリード化合物としたlead optimization (LO)研究の展開は、チエナマイシンの優れた抗菌活性の維持・向上と、チエナマイシンで問題となっていた中枢毒性・腎毒性の低減を目標に1978年に開始されました。しかしながら、この探索研究の着手時点では、チエナマイシンに関する種々の知見は報告されていたものの、上記のようなLO研究に活用するに十分な情報はありませんでした。そして何より、当社では、β-ラクタム系薬はもちろんのこと、抗菌薬の研究にすら無縁であった若手研究者数人での研究スタートであったことから、担当研究員の技術トレーニングからの出立となりました。

その後、効率的なLO展開に向けた情報を得るべく、50~60個のカルバペネム化合物が合成され、構造活性相関研究が精力的に進められました。その結果、2位側鎖内のカチオン(塩基)性が、主に腎臓に存在してカルバペネム系薬を加水分解するDHP-Ⅰ(dehydropeptidase-Ⅰ)に対する安定性および抗緑膿菌活性の維持に重要であること、さらには中枢毒性と腎毒性の発現への関与をも示唆するという非常に重要な知見が得られました。この知見を基に、弱塩基性の2位側鎖構造の探索を中心に、母核構造を含めたさらなる検討を進めた結果、2位側鎖構造としてジメチルカルバモイルピロリジニルチオ基という構造を採用することで強い抗緑膿菌活性を維持しつつ中枢毒性および腎毒性を大幅に低減し、さらにカルバペネム骨格に1-β-メチル基を導入することで、生体内での安定性(DHP-I安定性)の改善と抗インフルエンザ菌活性の改善などを実現し、メロペンが誕生しました。特に腎毒性の改善は、メロペンを世界で初めて単剤で開発する上でのキーポイントとなりました。

メロペンの特長と構造の関係

開発研究から上市に向けて(1984~1995年)、上市後から現在の取り組み

多くの苦難を乗り越えて達成されたメロペネム発見後も、開発および商業生産に向けての高いハードルが待っていました。メロペンは比較的小さな分子(分子量:437.51)にもかかわらず、6個の不斉炭素を含み、64個の立体異性体、光学異性体がある複雑な化学構造をもっています。そのため、1つの異性体を選択的に合成することには非常な困難を伴いましたが、社外の研究機関の協力も得て、商業生産への応用が可能な製法を確立することができました。また、化学的に安定なメロペネム3水和物結晶を得たことにより、その後の原薬や製剤の工業的製造プロセスの確立につなげることができました。なお、これらの成果に対して、1999年3月に、生産技術の分野で顕著な業績を上げた研究に贈られる「大河内記念技術賞」(1998年度)が授与されています。

一方、英国企業と共同開発契約を結ぶことによって、国内外同時進行でのグローバル開発が展開でき、1994年にイタリアにおいて世界最初の承認を得ることができました。本邦では、1988年に臨床試験が開始され、1995年に承認を取得しました。1995年の発売後も、医療ニーズに応える為に、小児用法用量の追加、化膿性髄膜炎、髄膜炎菌、発熱性好中球減少症(Febrile Neutropenia)に対する新規効能が追加され、2010年5月にはPK-PD(Pharmacokinetics-Pharmacodynamics)理論に基づいた十分量投与の考えのもと、欧米で用いられている標準的な投与量との乖離を是正すべく、重症・難治性の一般感染症に対する投与量上限の変更に向けた承認審査が進められています。

これからもメロペンによって重症感染症の救命率向上のお手伝いができることを一意に、少しでも多くの患者さん、先生方にお役に立てればと考えております。

最後に、メロペンの創製は、数多くの先生方や研究者のご協力がなければ成しえないものでした。ここに改めて深く感謝いたします。

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