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研究開発 医薬品創製物語

ガスモチン開発秘話

ガスモチン(一般名:モサプリドクエン酸塩水和物)は、消化管全体に存在するセロトニン5-HT4受容体の選択的なアゴニスト(Serotonin4 agonist:S4刺激薬)として、世界で最初に上市された消化管運動機能改善剤です。

消化器系の疾患では、胃・十二指腸潰瘍、消化器がんなどの研究が進んでいます。一方、X線や内視鏡などの検査で異常が認められないにも係わらず、「胃もたれ、胸やけ、腹痛、食欲不振、悪心・嘔吐」などの症状を訴える患者さんに対しては、「慢性胃炎」という保険病名のもと、さまざまな薬剤によって治療がなされています。しかしながら、本来の慢性胃炎とは、生検(バイオプシー)による病理組織学的な診断名であり、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染が主な原因であるということが明らかになっています。そのため、近年では前述のような症状に対しては「機能性ディスペプシア(Functional Dyspepsia)」と呼ばれるようになり、世界的に関心が高い疾患として注目されています。現在、機能性ディスペプシアの診断基準としてRomeⅢ基準(世界的に認められている診断基準)があり「機能性ディスペプシア」の症状は、胃もたれ、早期膨満感(食事の途中で満腹になってしまい、通常量の食事が完食できない)、心窩部痛、心窩部灼熱感に集約されていますが、胃もたれタイプの症状が日本では多いと言われています。胃部不快感を軽減させるためには食事療法と薬物療法がおこなわれますが、症状によっては胃の排出能を改善する薬剤(消化管運動機能改善剤)によって消化器症状が軽減される場合もあります。

第3世代の消化管運動機能改善剤-ガスモチン-

代表的な消化管運動機能改善剤として、ドパミンD2受容体遮断薬(第1世代)と、セロトニン(5-HT)作動薬(第2世代)があります。両者とも、神経終末からの神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの遊離を促進することで消化管運動を促進すると考えられています。しかし、ドパミンD2受容体遮断薬は中枢神経系にも存在するドパミンD2受容体に作用するため、ふるえや歩行困難などの錐体外路症状、高プロラクチン血症による乳汁分泌や月経異常などの副作用が懸念されます。

一方、消化管には4種類のセロトニン(5-HT)受容体が存在していますが、これらの受容体は消化管以外の臓器にも存在することから、幅広くセロトニン(5-HT)受容体に作用する薬剤は他の臓器への影響も懸念されます。つまり、目的である限られたセロトニン受容体(5-HT)にのみ作用する薬が理想と考えられます。1980年代、セロトニン(5-HT)受容体とドパミンD2受容体への作用を併せ持つ薬では、心筋のカリウムチャンネルブロックによる心室性不整脈や失神などの重篤な副作用が海外では報告されていました。

この問題を解決したのが、ガスモチンです。ガスモチンはセロトニン4(5-HT4)受容体に選択的に作用する消化管運動機能改善剤として世界で初めて世に出ました。従来の消化管運動機能改善剤のメカニズムと異なり、セロトニン4(5-HT4)受容体に選択的に作用し、しかも他の消化管運動機能改善剤と同等の消化管運動亢進が確認されたガスモチンは第3世代の消化管運動機能改善剤といえます。

探索研究の展開とガスモチンの発見

ドパミンD2受容体遮断作用を持たない消化管運動機能改善剤を目指して、まず着目したのは当社で開発された抗てんかん薬ゾニサミドでした。ゾニサミドの基本骨格はアセチルコリンを遊離促進することが判っていましたので、その誘導体がアセチルコリン遊離促進により消化管運動を亢進するのではないかと考えました。しかし、3年以上の時間を費やしても満足する結果は得られず、研究が暗礁に乗り上げてしまいました。そのような状況下で探索研究をあきらめかけた時、中枢神経系薬剤の創薬を目指していた当社の合成研究者から新規のベンズアミド系化合物の消化器系に対する薬理評価の依頼がありました。

ベンズアミド系化合物には、ドパミンD2受容体遮断作用は弱いにも関わらず、極めて強い消化管運動の促進作用を示す第2世代の消化管運動機能改善剤も含まれていました。そこでベンズアミドのアミン部分に着目し、構造解析や分子モデリングを参考にモルホリン環を導きました。すなわち、アミン骨格のピペラジン環3位にあるメトキシ基の酸素原子がドパミンD2受容体遮断作用を弱めるのではないかと仮定し、新たに環内へ酸素原子を導入したモルホリン環を発想しました。その後、アミン部分にモルホリン環を持つベンズアミド誘導体を合成したところ、驚くべき事にこの化合物は、ドパミンD2受容体を遮断すること無くアセチルコリンを賦活化させ、強力な消化管運動促進作用を示すことが判明しました。このプロトタイプのベンズアミド化合物から最適化研究を経て苦節5年、当初設定した薬理プロファイルを有するガスモチンを創製することに成功しました。

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セロトニン5-HT4受容体の選択的アゴニスト、S4刺激薬として

その後の研究によって、ガスモチンは消化管に存在するセロトニン5-HT4受容体を選択的に刺激することでアセチルコリンの遊離を促進させ、消化管運動を促進するということが推定されました。その当時は、消化管におけるセロトニン4(5-HT4)受容体の発現が不明であったのみならず、その発現を確認するヒトのセロトニン4(5-HT4)受容体のクローニングもされていませんでした。そのような中、セロトニン(5-HT)研究に係わる多くの先生方や、臨床研究にご協力いただいた患者さんをはじめとする多くの方々のお陰で、セロトニン4(5-HT4)受容体がヒトの胃や大腸に局在することが世界で初めて証明され、同時に、ガスモチンが同受容体に親和性を有することが明らかにされました。これらの成果を礎とし、ガスモチン創薬が今日の消化器疾患領域の創薬研究の発展に大きく寄与したとの評価を受け、2002年度全国発明賞という栄誉に輝きました。

患者さんの生活の質(QOL)向上への願い

医薬品は効果があれば、それだけで良いということではありません。病気そのもので苦しんでいる患者さんに、治療を受ける上で別の苦痛や負担を強いることは可能な限り避けなければなりません。飲みやすさによる患者さん側の服薬コンプライアンス(医薬品を正しく服用)の向上や、医師側の処方のしやすさによる服薬コンプライアンス(医薬品を正しく服用させる)の指導が容易となることに配慮した製品・製剤設計が重要になってきます。ガスモチン錠の剤形は変形錠です。多くの消化管運動機能改善剤が円形錠であることから、識別への配慮と、誰もが飲みやすいようにと楕円形の設計になっています。また、錠剤と散剤との生物学的同等性を考慮した処方上の配慮とともに、苦みを少なくさせるため、錠剤ではフィルム錠を選択したこと、散剤に対してはD-マニトールを用いて甘味を出す工夫など多くの改良がされています。

ガスモチンは慢性胃炎に伴う消化管症状(胸やけ、悪心・嘔吐)を軽減することで患者さんのQOLを高める薬です。また、経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助薬として、従来は不可能であった方法での注腸検査が可能となりました。当社では、患者さんのQOLのさらなる向上に役立つことを願っています。

最後に、ガスモチン創製は、臨床試験にかかわってこられた先生方をはじめとする医療従事者の皆様、協力いただいた患者さんをはじめ、多くの方々のご協力がなければ成しえないものでした。ここに改めて深く感謝いたします。

「コラム」ガスモチンの名前の由来は?

ガストリック(胃)とモティリティ(運動)を合わせて「胃の運動」。ここから「ガスモチン」と言う名前が付けられました。

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